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2025年キャットボンド市場のまとめ

1. 市場概況:発行残高533億ドル、前年比17%増で過去最大を大幅更新

2025年のキャットボンド市場は、発行残高・年間新規発行額ともに過去最大を大幅に更新し、市場の構造的な成長が加速した年となった。

発行残高の前年比+17.4%は、過去10年の年平均成長率(7.1%)を大きく上回る成長となった。発行残高は年初に満期償還が集中し一時442億ドルまで減少したものの、記録的なペースでの新規発行により3月には477億ドル、5月には510億ドルと急速に回復・拡大。夏場に一時496億ドルまで低下した後、第4四半期の大量発行により11月には511億ドル、年末には533億ドルに到達した。

指標2024年末2025年末変化
市場発行残高454億ドル533億ドル+79億ドル(+17.4%)
累積発行額(1996年~)1,563億ドル1,777億ドル+214億ドル
年間新規発行額153億ドル(61件)214億ドル(80件)+40%、過去最大
年間償還額120億ドル(46件)136億ドル(61件)+16億ドル
平均期待損失(全残高)2.2%2.1%-0.1pt
平均スプレッド(全残高)7.8%7.6%-0.2pt
新規発行平均スプレッド8.4%6.9%-1.5pt
新規発行平均期待損失2.3%2.4%+0.1pt

2. 新規発行動向:年間214億ドル、前年比40%増で過去最大を大幅更新

四半期別の発行推移

四半期発行額特徴
Q1約61億ドルQ1として過去最大(前記録2020年Q1の38億ドルの1.6倍)。Sanders Re II(7.5億ドル)、Cape Lookout Re(6億ドル)等の大型案件。日本案件含む
Q2約89億ドル上半期合計150億ドルで2024年の年間発行額に匹敵。Everglade Re II(15.25億ドル)が最大案件。State Farm Merna(15.5億ドル、4(2)発行)
Q3約7億ドル例年通り低調。
Q4約57億ドル38銘柄が発行。ほぼ全案件がガイダンス中央値以下で価格決定。強い投資家需要が継続

年間の発行特徴

■ 対象地域:新規発行の86%が米国リスク。前年の81%から上昇し、北米偏重がさらに強まった。日本(5%)、欧州(3%)、グローバル(6%)。

■ リスクタイプ:台風/ハリケーン/風災が引き続き最大カテゴリ。複合ペリル(Multi Peril)、地震がこれに続く。

■ トリガータイプ:実損(Indemnity)型75%、Industry Index型24%、パラメトリック型1%。パラメトリック型の割合が前年の9%から大幅に低下した一方、Industry Index型が拡大。

■ スポンサー構成:保険会社53%、再保険会社22%、州政府関連20%、公的機関4%、事業会社1%。再保険会社の割合が前年の16%から拡大し、公的機関(前年32%→4%)が大幅に低下。州政府関連(Statebacked)が新たなカテゴリとして約20%を占めた。

■ リスク期間:3-4年が56%で引き続き主流。3年未満が14%、4-5年が24%、5-6年が6%と前年に比べてやや長期化の傾向が見られた。Sanders Re IIでは期間5年のトランチが3年物に対して25bps高い料率で発行され、投資家の長期志向が確認された。

3. 価格動向:スプレッド大幅低下、年間を通じて強い投資家需要

年間のスプレッド推移(全残高ベース)

平均期待損失平均スプレッド
1月2.2%7.8%
3月2.1%7.7%
5月2.2%7.8%
7月2.1%7.7%
10月2.1%7.7%
11月2.1%7.7%
12月2.1%7.6%

全残高ベースの平均スプレッドは年初の7.8%から年末にかけて7.6%まで緩やかに低下した。一方、新規発行の平均スプレッドは年初の8.4%(直近12か月ベース)から年末には6.9%まで大幅に低下し、期待損失倍率は2024年末の3.7倍から2.9倍へと顕著に改善した。これは2023年以降続くスプレッド縮小トレンドが加速したことを示しており、スポンサーにとってのコスト効率が大幅に改善された一年となった。

四半期別の価格動向

■ Q1:極めて強い投資家需要:1月に発行された11トランチのうち9件が当初の価格レンジを下回る水準で価格決定。2月には22トランチ中18件がガイダンス下限以下で価格決定され、13件で増額発行が実施された。3月にも16件中11件がガイダンス下限以下。GeoVeraのVerizon Re Ltdは2.75億ドルから4.5億ドルに増額されガイダンスを大幅に下回る価格で決定された。

■ Q2:記録的発行と安定した需要:上半期の発行額は150億ドルに達し前年の年間発行額に匹敵するペース。Citizens PropertyのEverglade Re IIは当初9.75億ドルから15.25億ドルへ大幅増額。State FarmのMernaシリーズは4(2)発行で合計15.5億ドルを発行した。殆どの案件がマーケティング開始時の価格レンジの中間で価格決定された。一部の日本リスク案件では流通市場で額面割れの取引も見られたが、2024年Q2後半のような発行キャンセルは発生しなかった。

■ Q3:供給減少と安定した価格:例年通り新規発行は低調。UCITファンドの残高は171億ドルに達し前年末から24%増加。流通市場では日本の台風・地震案件が額面近辺で取引され、価格は持ち直しの傾向。

■ Q4:再び強い投資家需要:9月以降に発行された全案件で価格ガイダンスの下限を下回る水準で価格決定が行われた。11月には11トランチ中10件がガイダンス下限以下。12月には38銘柄中36銘柄がガイダンス中央値以下で価格決定され、年間を通じた投資家需要の強さが改めて確認された。

4. 投資家動向:UCITファンドの継続拡大

キャットボンドに投資を行うUCITファンドの残高は2025年を通じて継続的に拡大した。

時期UCIT残高
2025年初頭138億ドル
2025年7月171億ドル(前年末比+24%)
2025年末約180億ドル超(残高全体の約34%)

UCITファンドの残高は2024年末の138億ドルから2025年7月には171億ドル(+24%)に達し、年末にかけてさらに拡大した。UCITファンドには厳しい分散要件が課されており、残高拡大は日本を含む分散ペリルへの潜在的な投資需要の増加につながっている。キャットボンド市場全体の成長に加え、UCITファンドへの資金流入が年間を通じた強い投資家需要とスプレッド低下の主要因の一つとなった。

5. 日本市場:発行残高減少、新規供給の縮小が顕著

年間の推移

指標2025年初2025年末
日本ペリル発行残高24.2億ドル19.2億ドル
累積発行額100.4億ドル105.6億ドル
全市場に占める割合約5.3%約3.6%
新規発行(2025年)2.5億ドル(2件)
償還(2025年)7.5億ドル(4件)

市場全体の発行残高が過去最大を大幅に更新する中、日本ペリルの発行残高は24.2億ドルから19.2億ドルへと大幅に減少した。新規発行(2.5億ドル)に対し償還(7.5億ドル)が大きく上回ったことが主因である。全体に占める割合は5.3%から3.6%に低下し、2018年ピーク時(13%)の4分の1程度にまで縮小した。

2025年の新規発行案件(日本リスク)

案件名発行月スポンサーペリル発行額期待損失スプレッド
Sakura Re Ltd Class A3月損保ジャパンJP TY1.5億ドル1.58%2.75%
Nakama Re Pte Ltd Class A4月全共連JP EQ1億ドル0.77%2.00%-2.50%

合計2.5億ドル(2件2トランチ)がQ1に発行された。損保ジャパンのSakura Re Ltdは日本の台風リスクを対象に1.5億ドルをガイダンスレンジの下限である2.75%で発行。全共連のNakama Re Pte Ltdは日本の地震リスクを対象とする実損型のキャットボンドで、アジア開発銀行(ADB)の債券を担保として使用した初めての案件となった。前年の4.5億ドル(3件4トランチ)から発行額は大幅に減少した。

流通市場の動向

■ 台風案件:年前半は季節性要因もあり額面を下回る取引が散見されたが、年後半にかけて価格は持ち直しの傾向。Tomoniシリーズは額面近辺での取引が継続した。

■ 地震案件:Nakamaプログラムを中心に額面を上回る水準での取引が年後半に増加。特にNakama 2021-1シリーズは額面を大幅に上回る水準(103-104セント)で取引され、日本の地震リスクに対する投資需要の強さが確認された。

■ 総括:日本リスクを対象とする新規キャットボンドの供給が前年の4.5億ドルから2.5億ドルに減少し、流通市場でも売りに出される案件が限られた。投資家が日本の案件を手放さず保有し続ける傾向が強まり、取引量は減少した。一方で取引価格は改善傾向にあり、分散ペリルとしての需要は引き続き底堅い。

6. 注目すべきトピック

(1) 記録的な大型発行プログラム

  • 2025年はプログラムの大型化が顕著となった。2月にはSagaSureのGateway Re Ltdが当初4.1億ドルから5.2億ドルに増額。3月にはAllstateのSanders Re IIが3億ドルから7.5億ドルに増額、期間5年のトランチも含む4トランチを発行した。5月にはCitizens PropertyのEverglade Re IIが9.75億ドルから15.25億ドルまで大幅増額。NCIUAのCape Lookout Reは3.5億ドルから6億ドルに増額された。近年の新発債の小規模化傾向が一転し、プログラムの大型化が進んだ。

(2) State Farm Mernaシリーズの4(2)発行

  • 5月にState FarmがMernaシリーズとして4つの案件(合計15.5億ドル)を4(2)発行で発行。通常の144A発行ではないが、144Aの要件を充足して発行されており、単一スポンサーによる発行額としては市場最大級の規模となった。それぞれ異なるペリルを対象としており、State Farmの再保険プログラムにおけるキャットボンドの活用が一段と拡大した。

(3) 新たなスポンサー・地域の拡大

  • Migdal Insurance社(イスラエル):イスラエルの地震リスクを対象とする初めての実損型キャットボンド(Turris Re、1億ドル)を発行。期待損失0.27%に対しスプレッド2.4%で、新たな地域のリスクが市場に登場した。
  • MMIFS Re(TD Insurance):2025年1月にカナダの地震・風水災を対象とする案件をガイダンス3.25%-3.75%を下回る2.90%で発行した後、12月には山火事等を新たに対象リスクに加え累積型の回収構造を採用した案件を6.75%で発行。同一スポンサーの2回の発行でリスク特性の違いによる大きな価格差が明確となった。
  • Covea Group(フランス):欧州の気象災害を対象とするHexagon IV Reを発行。当初2億ユーロから2.5億ユーロに増額され、ガイダンスを下回る水準で価格決定された。

(4) ADB債券担保の初事例

  • 全共連のNakama Re Pte Ltdは、アジア開発銀行(ADB)の債券を担保として使用した初めてのキャットボンドとなった。従来の米国債やMMF等に代わる担保の多様化が進展し、アジアの開発金融機関との連携という新たな可能性を示した。

(5) 欧州案件の継続的な多様化

  • Groupama(フランス、Quercus II Re)、Covea Group(フランス、Hexagon IV Re)、Mapfre Re(スペイン、Recoletos Re DAC)など、欧州の多様なスポンサーによる発行が継続した。Recoletos Re DACはガイダンス4.0%-4.5%を大幅に下回る3.5%で発行され、1億ドルから1.25億ドルに増額された。欧州リスクに対する投資家の旺盛な需要が確認された。

(6) 大型案件の動向

  • Everglade Re II(Citizens Property):9.75億ドル→15.25億ドルへ大幅増額(Q2)
  • Sanders Re II(Allstate):3億ドル→7.5億ドルへ大幅増額、4トランチ(Q1)
  • Cape Lookout Re(NCIUA):3.5億ドル→6億ドルへ増額(Q1)
  • Kilimanjaro II Re(Everest Re):4億ドル→10億ドルへ大幅増額(Q2)
  • Verizon Re(GeoVera):2.75億ドル→4.5億ドルへ増額(Q1)
  • Acorn Re(Oak Tree Assurance):2億ドル→2.4億ドル、ガイダンス大幅下回り(Q4)

7. 2025年末時点の市場構成(全残高533億ドル)

項目全残高新規発行分(12か月)
対象地域米国84.3%、日本4.3%、欧州4.2%、グローバル5.5%米国86%、日本5%、欧州3%、グローバル6%
期待損失平均2.1%平均2.4%
スプレッド平均7.6%平均6.9%
トリガーIndemnity 75.1%、Index 21.2%、Parametric 3.8%Indemnity 75%、Index 24%、Parametric 1%
スポンサー保険54.2%、再保険17.5%、公的5.7%、州政府関連20.2%、企業1.2%保険53.3%、再保険21.9%、公的4.1%、州政府関連19.6%、企業1.1%
リスク期間3年未満13%、3-4年59%、4-5年23%、5-6年5%3年未満14%、3-4年56%、4-5年24%、5-6年6%

8. 総括

1. 発行残高は年末533億ドルに到達し過去最大を大幅更新。前年比+17.4%の成長は過去10年の年平均成長率(7.1%)の2倍以上であり、市場の成長が加速していることが示された。

2. 年間新規発行額214億ドル(80件)で前年の153億ドルを40%上回り過去最大。上半期だけで150億ドルに達し、前年の年間発行額に匹敵する記録的ペースで進行。通年でも過去最大の発行水準を維持した。

3. 新規発行の平均スプレッドは8.4%から6.9%に大幅低下。期待損失倍率は3.7倍から2.9倍に改善し、スポンサーにとってのコスト効率が2023年の急騰以降で最も改善された。全残高ベースのスプレッドも7.8%から7.6%に低下した。

4. 投資家需要は年間を通じて極めて強く、特にQ1とQ4に顕著。Q1では大半の案件がガイダンス下限以下で価格決定され大型案件の増額が相次いだ。Q4の12月には38銘柄中36銘柄がガイダンス中央値以下で価格決定された。2024年Q2後半のような発行キャンセルは発生せず、市場の需給バランスが安定化した。

5. UCITファンド残高が138億ドルから180億ドル超に拡大し、キャットボンド残高の約34%を占めるまでに成長。分散ペリルへの投資需要拡大に引き続き寄与した。

6. 日本市場は2.5億ドルの新規発行にとどまり、償還7.5億ドルが大きく上回った結果、発行残高は24.2億ドルから19.2億ドルに減少。市場全体に占める割合は5.3%から3.6%に低下した。一方、流通市場での取引価格は改善傾向にあり、投資家が日本案件を保有し続ける傾向が見られ、分散ペリルとしての需要は底堅い。ADB債券担保の新スキームも導入された。

7. 新たなスポンサーの参入や地理的多様化が進展。イスラエル初の実損型キャットボンド(Turris Re)、カナダドル建て案件の拡充(MMIFS Re)、欧州の多様なスポンサーによる発行(Covea Group、Mapfre Re、Groupama)など、市場の広がりと深化が継続した。

8. プログラムの大型化が進展。Sanders Re II(7.5億ドル)、Everglade Re II(15.25億ドル)、Kilimanjaro II Re(10億ドル)など、大型の増額発行が相次ぎ、近年の小規模化傾向が一転した。State FarmのMernaシリーズ(15.5億ドル、4(2)発行)も市場の供給拡大に寄与した。