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2024年キャットボンド市場のまとめ

1. 市場概況:発行残高454億ドル、過去最大を更新

2024年のキャットボンド市場は、発行残高・年間新規発行額ともに過去最大を記録した年となった。

指標2023年末2024年末変化
市場発行残高421億ドル454億ドル+33億ドル(+7.8%)
累積発行額(1996年~)1,410億ドル1,563億ドル+153億ドル
年間新規発行額約150億ドル超153億ドル(61件)過去最大
年間償還額120億ドル(46件)
平均期待損失(全残高)2.25%2.2%-0.05pt
平均スプレッド(全残高)7.27%7.8%+0.53pt
新規発行平均スプレッド8.4%
新規発行平均期待損失2.3%

発行残高の前年比+7.8%は、過去10年の年平均成長率(7.1%)を上回る成長となった。発行残高は年初の396億ドルから一貫して拡大し、4月末に433億ドルで過去最大を初めて更新、5月末に444億ドル、年末には454億ドルに到達した。

2. 新規発行動向:年間153億ドル、過去最大を記録

四半期別の発行推移

四半期発行額特徴
Q1約38億ドル同時期として2020年Q1に次ぐ過去2番目。日本案件含む
Q2約72億ドル上半期合計110億ドルで過去最大ペース。大型案件が相次ぐ
Q3約2億ドル例年通り低調。
Q441億ドル旺盛な需要に支えられ好条件での発行が継続

年間の発行特徴

■ 対象地域:新規発行の81%が米国リスク。欧州(3%)、日本(7%)、グローバル(6%)。新規発行ベースでは欧州案件が増加した。

■ リスクタイプ:台風/ハリケーン/風災が最大カテゴリ。複合ペリル(Multi Peril)、地震がこれに続く。

■ トリガータイプ:実損(Indemnity)型73%、Industry Index型18%、パラメトリック型9%。パラメトリック型の割合が拡大。

■ スポンサー構成:保険会社46%、公的機関32%、再保険会社16%、事業会社4%。公的機関の割合が拡大傾向。

■ リスク期間の短期化:高止まりする料率の影響で、3年未満の案件が新規発行の25%に増加(全残高では13%)。3-4年が55%で主流。

3. 価格動向:スプレッド高止まり、年後半に投資家需要が大きく回復

年間のスプレッド推移(全残高ベース)

平均期待損失平均スプレッド
1月2.25%7.27%
3月2.21%7.38%
5月2.22%7.72%
7月2.23%7.83%
9月2.3%7.8%
11月2.2%7.8%
12月2.2%7.8%

平均スプレッドは年初の7.27%から年央にかけて7.83%まで上昇した後、下半期は7.8%前後で高止まりした。一年を通してみると期待損失倍率は昨年より改善したものの、過去に比べて比較的高い水準にとどまった。

四半期別の価格動向

■ Q1:強い投資家需要:ほぼ全案件がオファースプレッドレンジの中央値以下で価格決定。25トランチ中12件で増額発行が実施された。

■ Q2前半:需要継続:強い需要が継続。TWIAのAlamo Reは6億ドル→14億ドルに大幅増額された。

■ Q2後半:一時的な需給悪化:大型案件(Everglade Re II 8.5億ドル、Merna II 10億ドル等)の集中により需給悪化。オファースプレッドの中央値・上限を上回る価格決定が増加。Titania Re(Ariel Re)とGateway Re 2024-3(SURE)が発行キャンセルとなった。

■ Q3:供給減少による価格回復:新規発行が実質1件で供給大幅減少。流通市場では価格が全体的に上昇した。

■ Q4:極めて強い投資家需要:12月に発行された18トランチ全てがマーケティング当初の価格レンジ中央値を下回るスプレッドで価格決定。うち15トランチでは下限を下回る水準で決定された。AllstateのSanders Re IIは3.5億ドル→6.5億ドルに増額。Liberty MutualのMystic Re IVは当初予定のなかったClass Cも追加発行された。

4. 投資家動向:UCITファンドの急拡大

キャットボンドに投資を行うUCITファンドの残高は2024年を通じて急速に拡大した。

時期UCIT残高
2024年初頭約100億ドル
2024年3月113億ドル
2024年5月121億ドル
2024年9月130.5億ドル
2024年末130億ドル超(残高全体の約30%)

UCITファンドには厳しい分散要件が課されており、残高拡大は日本を含む分散ペリルへの潜在的な投資需要の増加につながる。オルタナティブ資産に投資するUCITファンド全体では2023年中に大幅な資金流出が見られた中で、キャットボンドファンドへの資金流入は顕著であった(Kepler社調査)。

5. 日本市場:安定した発行残高、流通市場は改善傾向

年間の推移

指標2024年初2024年末
日本ペリル発行残高22億ドル24.2億ドル
累積発行額96億ドル100.4億ドル
全市場に占める割合約5.6%約5.3%
新規発行(直近12か月)4.5億ドル(3件)
償還(直近12か月)2.5億ドル(2件)

市場全体の発行残高が拡大する中、日本ペリルの全体に占める割合は5.3%にとどまり、2018年ピーク時(13%)の半分以下が継続した。

2024年の新規発行案件(日本リスク)

案件名発行月スポンサーペリル発行額期待損失スプレッド
Kizuna III 2024-1-A3月東京海上JP EQ1億ドル0.53%2.75%
Tomoni 2024-1-A3月三井住友海上JP TY7,500万ドル1.45%3.25%
Tomoni 2024-1-B3月あいおいニッセイ同和JP TY/EQ1億ドル1.60%4.00%
Nakama 2024-1-A4月全共連JP EQ1.5億ドル0.79%2.35%

合計4.5億ドル(3件4トランチ)がQ1~Q2に発行された。いずれもシンガポールの既存SPRVを活用したシリーズ発行。Nakama 2024-1は分散ペリルに対する投資家の強い需要を反映し、価格レンジ(2.25%-2.50%)の中間付近となる2.35%で決定された。

流通市場の動向

■ 台風案件:年前半は季節性要因もあり額面を下回る取引が見られたが、Q3以降は額面を上回る水準に改善。昨年同時期との比較では総じて取引価格が改善した。

■ 地震案件:Nakamaプログラムを中心に年間を通じて活発な取引が継続。Q3には発行市場の供給減少を受けて流通市場での取引価格が全体的に上昇し、額面を上回る取引が増加。年末にかけては満期が近づいた案件の取引が中心となり、取引量は減少した。

■ 総括:日本リスクを対象とする新規キャットボンドの供給が限られているため、年後半は特に流通市場の取引量が減少。一方で取引価格は改善傾向にあり、分散ペリルに対する発行環境は良好。

6. 注目すべきトピック

(1) 新たなスポンサー・市場の拡大

  • Prologis社(米国物流不動産大手):事業会社として地震リスクのキャットボンドを発行(Logistic Re、$95mil、ガイダンス6.75%-7.25%に対し6.00%で決定)。
  • Mapfre Re社:スペインの再保険会社として初のキャットボンド(Recoletos Re、北米ハリケーン、Industry Index型)。
  • TD Insurance:初のカナダドル建てキャットボンド(MMIFS Re、カナダのハリケーン/地震)を発表。ガイダンスを切り下げた水準でマーケティング。
  • プエルトリコ政府:地震・ハリケーンを対象とするパラメトリック型キャットボンドを発行。

(2) 欧州案件の多様化

イタリア(UnipolSai、Azuro Re II)、オランダ(Achmea、Windmill III)、フランス(Groupama、Quercus Re)、ドイツ(Talanx、Maschpark Re)、オランダ(NN Group、Orange Capital Re)など多様な欧州スポンサーによる発行が見られた。Talanxの案件は南米(チリ等)の地震をCat in the boxストラクチャーでカバーするユニークな案件であった。

(3) メキシコFONDENプログラムの継続

IBRD CARプログラムを通じたメキシコの地震・ハリケーンリスクのカバーが更新。2023年のハリケーン・オーティスでの回収見込みがある中でも分散ペリルへの強い需要により増額発行が実現した。

(4) 発行キャンセルと投資家の選別

Q2後半に需給悪化した際、Titania Re(Industry Index型)とGateway Re 2024-3(Indemnity型)が発行キャンセル。Nature Coast Reも発行額縮小・価格引き上げを余儀なくされた。一方で同時期に増額発行や好条件での発行も存在しており、投資家による案件の選別が明確化。Q4にはこうした需給の歪みは完全に解消され、全案件が好条件で発行された。

(5) 大型案件の動向

  • Alamo Re(TWIA):6億ドル→14億ドルへ大幅増額(Q2)
  • Everglade Re II(Citizens Property):6トランチ合計8.5億ドル(Q2)
  • Sanders Re II(Allstate):3.5億ドル→6.5億ドルへ増額(Q4)
  • Acorn Re(Oak Tree):米国地震パラメトリック型、4億ドル→4.5億ドルへ増額、ガイダンス大幅下回り(Q4)

7. 2024年末時点の市場構成(全残高454億ドル)

項目全残高新規発行分(12か月)
対象地域米国81.6%、日本5.3%、欧州4.3%、グローバル6.7%米国81%、日本7%、欧州3%、グローバル6%
期待損失平均2.2%平均2.3%
スプレッド平均7.8%平均8.4%
トリガーIndemnity 71.6%、Index 23.0%、Parametric 5.4%Indemnity 73%、Index 18%、Parametric 9%
スポンサー保険53.4%、再保険18.9%、公的24%、企業2.5%保険45.9%、再保険16.4%、公的32%、企業3.6%
リスク期間3年未満13%、3-4年60%、4-5年24%3年未満25%、3-4年55%、4-5年19%

8. 総括

1. 発行残高は年末454億ドルに到達し過去最大を更新。前年比+7.8%の成長は過去10年の年平均成長率(7.1%)を上回り、市場は構造的な成長軌道にある。

2. 年間新規発行額153億ドルで2023年をわずかに上回り過去最大。上半期に110億ドルと記録的ペースで進み、通年でも高水準を維持した。

3. スプレッドは全残高平均7.8%、新規発行平均8.4%で高止まり。期待損失倍率は前年より改善したが、過去と比べて比較的高い水準にとどまり、スポンサーにとってコスト面の課題が残った。

4. 投資家需要は年間を通じて底堅く、特にQ4に顕著な回復。Q2後半の一時的な需給悪化と発行キャンセルを経て、Q4の12月には全18トランチがガイダンス中央値以下で価格決定される極めて強い需要が確認された。

5. UCITファンド残高が130億ドル超に急拡大し、キャットボンド残高の約30%を占めるまでに成長。分散ペリルへの投資需要拡大に寄与。

6. 日本市場は4.5億ドルの新規発行、発行残高24.2億ドルで安定。市場全体に占める割合は5.3%にとどまるが、流通市場の取引価格は年後半にかけて改善。日本リスクの新規供給が限られる中、分散ペリルとしての需要は底堅い。

7. 新たなスポンサーの参入や地理的多様化が進展。事業会社(Prologis)、初参入の再保険会社(Mapfre Re)、初のカナダドル建て(TD Insurance)、南米リスク(Talanx)など、市場の広がりと深化が確認された。